ああ、マントルが饒舌に火を噴き上げて

徒然なるままに、じゃねぇんだわ

いい歳して自由に死ぬ権利があると思ってんのかい - 『千年女優』

 女もすなるブログといふものを、男もしてみむとてするなり。

 普段twitterであれやこれやと呟いてる自分だが、アレはどうしても文章が散発的になってしまうので、前々から自らの思考を纏めて書いておく場がほしいと思っていた。とはいえ怠惰な自分のことだからコンスタントな更新は期待できないが、せめて10回、いや5回の投稿を目標にしていこうと思う。

 

 今回のお話は今敏監督の映画『千年女優』。まずジャンルはなんといえばよいのだろうか。自分が普段見ているのは大抵アクションアニメ映画で、こういう"バトルをしない"作品を見ない。"萌え"も"燃え"も無いジャンルに馴染みのないオタクである。

 しかし面白かった。まずこの映画の特色はなんといっても主人公の女性・藤原千代子の半生が彼女が演じてきた映画の世界と現実の世界が入り交ざった幻想世界で描かれることだ。映像が目まぐるしく変わるので見ていて楽しいし、少々難解な表現というものは頑張って理解しようという気になり惹き込まれていく。

 千代子は少女時代に名も知らぬ"鍵の君"と出会い、恋に落ちる。この時代(戦前)の少女というものは、殿方との淡い恋に夢を抱き、ともすればその夢物語に溺れてしまうものであるらしい。彼女は女優として大成しながらも、常に"鍵の君"の影を追っていた。

 その他の登場人物は、千代子の大ファンでありかつて彼女と同じ撮影所で末端のスタッフをやっていた立花源也と部下井田恭二。映画は現代(といっても1990年代だが)で彼らが千代子を取材する形で進んでいく。そして千代子を狙う映画監督大滝諄一、千代子のライバル女優で彼女の若さを妬む島尾詠子"。大滝はしつこいアプローチの末千代子と結婚するが、その際千代子の心が自らに向くようにある細工(詠子も加担させられていた)を行っていたので、のちにそれがバレてその関係に亀裂が入る(離婚したのかは定かではない)。

 くノ一、太夫、女学生、果ては月面ロケットの女性搭乗者。大滝の作品の中で千代子が女優として演じた役はどれも千代子そのもので、千代子は現実でも作品の中でも恋する男性を追っている。だからこそ現実と虚構がリンクし幻想世界が紡がれるのだが、大滝はわざとそのような作品ばかり作っていたのだろうか。

 千代子が40代の頃、地震により撮影セットが崩壊し彼女が下敷きになる事故が起こる。事故自体はその場に居合わせた立花が庇うことで大事には至らなかったが、この時千代子は失踪し、以後山奥の家で30年ひっそりと暮らしていた。彼女が失踪したのは、事故の際自らの姿が呪いの老婆(千代子が若い頃に出演した作品の登場人物の1人だが幻覚として何度も現れる)と重なり、例え"鍵の君"と再会できたとしても、自らの老いた顔を彼に見られたくなかったからだという。

 現代、取材中にまた地震が起こる。その時のショックで千代子は気を失ってしまい、病院に運ばれる。立花は病院に向かう途中、かつて撮影所で千代子を訪ねてきたある"傷の男"との会話を思い出す。この男は戦中、"鍵の君"を思想犯として拷問し、死なせてしまった人物であり、そのことを悔いていたが、この話は立花にしか伝えられなかった。

 だが、病床に伏す千代子は"鍵の君"がすでにこの世にいないことを悟っていたようで、彼を再び追うことができることを喜び、その生涯を終える。彼女は最期、「("鍵の君"と再会できようができまいが)どっちでもいいのかもしれない」と話す。何故なら、「だってわたし、あの人を追いかけている私が好きなんだもの」と──。

 

 千代子は、とても自由に生きた女性だった。少女時代の恋が忘れられず、名も知らぬ男を追い続けた。ともすれば愚かであるようにも映ってしまうが、千代子の心情は多くの女性にとって共感できるものであろうことは察せられる。

 女性とは、いつまでも少女で、いつまでも乙女なもののようだ。やれフェミニズムジェンダーだといおうと、その本質がそう変わることはない。鬱屈とした現状を変えてくれる男の登場を恋焦がれ、ロマンスを求めずにはいられない。

 だが、その様はとても愚かではあるものの、その恋に生きる姿こそが、我々男性にとっても魅力的に映るものである。"鍵の君"や大滝に嫉妬しながらも、千代子に少しでも近づき、そして知ろうとする立花の気持ちは、とてもよくわかる。結局、男も女も追う恋がしたいものなのだ。

 

 最後に。この映画の主題歌、平沢進の『ロタティオン(LOTUS-2)』も素晴らしかった。実は自分は氏の楽曲の一つ『白虎野の娘』(当ブログのタイトルもここから引用した)を知っており、この曲こそが『千年女優』の主題歌だと勘違いしていたのだが、それは『パプリカ』という映画の方であるらしい。『白虎野の娘』もとても良い曲なので、こちらの映画も観てみようと思う。

 ちなみにこの記事のタイトルは千代子の母の台詞。中々強烈な言葉ではあるが、とても気に入ったので使わせてもらった。